クラウンワークス虚実概論  4章

忘却はあらゆる不安の特効薬である。
死が万人の恐怖なら、認知症は人に備わる最後の救い
なのだろう。しかし、忘れられたものは存在しなくなるわけではない。
舞台は都市部を離れ、閉鎖された田舎へ移る。
七年前、スフィンクス禍のために開催されなかった人馬祭。
主催者の死と共に喪われた祭祀を復活させることが、イデア殲滅の鍵を握る。
村は忘れられていて、だからこそ、情報は残されていた。
ただ、廃忘と縁を持てば、自身も認知外の存在になる危険性がある。
村は秘密に近づくものに同質化を求めるから。
厳重に封印された扉の奥で、過去の秘密は傷口が開くのを待っている。
だが、それ自体も、それがかつて何であったか 長い間思い出せていない。

口を閉ざすべきだ

辺境に残された伝説は未だ生きている

鎌首をもたげて 人形だらけの死の村を今も睥睨している

盗みを働けば 蛇がくるぞ

この過去からは セルロイドが灼ける臭いがする

僕たちは5人だった

なのに今は4人しかいなくて

なくした誰かを思い出せない罪で

記憶は刃と化す

赤き庇護は絶対の盾にして勁烈なる矛

群れは身を寄せ合う子羊の流儀ではなく

精密な狩りの形態だ

支配とはすなわち 万全なる勝利のために

 

Chapter 4: Artificial Firing of Engram Cells that Allows Memory Rewritin--or Hydra

4章 記憶の書き換えを可能とするエングラムセルの人為的発火
――あるいはヒュドラ

自分に打ち勝つとは負ける僕がいると言うことだ
それは、あまりに無残だ

  • 構成

    空館ソウ

  • 文章

    九城エリオ

  • イラスト

    雪灯