クラウンワークス虚実概論 2章

昨日の自分は今日の自分と同じだろうか。
明日は、同じでいられるだろうか。
不確かな自分に、同じく不確かな他者。
それをどこまで信じることができるのだろう。
昨夜の奇跡の代償のように、事態は連鎖反応を起こす。
殆どの人間が、光の下だけを選んで歩むことはできない。
隣にいる親しい誰かも、人に言えない過去を引き摺っている。
七年ぶりに現れた殺人鬼は、純粋な恐怖の象徴だ。
わざとらしいまでに威嚇的な姿に隠されて、顔は見えない。
あるいは、中身など誰でもいいのかも知れない。
高まる淘汰圧により流血は止めどなく、嘘と真実を押し流す。
臓物は不可分なまでに混ざり合い、誰が誰なのか誰も解らない。
信じたいものを信じ続けるために、嘘をつくのか。
選ぶ時が来た。

親友、俺は昔のままの俺だろうか

それとも俺はとうに喰われて、獣が皮を被っているのだろうか

教えてくれ親友

この心を、お前は識っているか?

レコードに針が落ちた

年月で歪んだ音に自分を見つける

青い過日が鼻先に芳しくても

懐旧がどれだけ喉に甘くても

今の私に 過去は通用しない

私は記録になった

  私は追憶になった

命のない私は複製され続け

  いずれ大輪の毒花を戴くを夢を見る

葬られた、原型を無くして

Chapter 2: Triggers for Divergent Disorders with Severe Loss of Identity

2章 自我同一性の喪失が重篤化した乖離性障害のトリガー
――あるいはヤヌス

削ぎ落として削ぎ落として
最後に残った部分が始めた時と同じ欲望を歌うなら
ずいぶん小さくなったとしてもその部分が核だったのだ

  • 構成

    空館ソウ

  • 文章

    九城エリオ

  • イラスト

    雪灯