§1
「僕は開幕を宣言する。
幼児語を使い、『復活してほしいもの』を発表しつつ、ノリツッコミをしながら、飲み物を囲んでスライドを見る会」
……あきれられるのは、解っているし慣れてもいるんだ。
§2
「復活選手権をしよう」
いつものようにサイファーがわけのわからない提案をしたので、僕は嫌な顔をした。
「それって、死んだ人を復活させてゼロサムゲームのバトルロワイヤルを見守るってこと?」
「違う。似たようなことを普段やっているだろう。
普通に、復活してほしいものを言い合って、たくさんナルホドネを得た人が一番になるゲームだ」
こちらを普段にしてほしい、地味で平和なゲームだ。
「やらない」
勿論僕は即答する。そして予想通り、サイファーが唇に冷笑を浮かべた。
「僕ほどになると、どうせ嫌がると予想して説得用のスライドを用意してある。
仮に正宗くんの脳を輪切りにしたスライドだったら、23人分まるごとと24人目の眼窩がはっきり見えるくらいの枚数だ」
「どれだけか知らないけど、多いことはわかった。
準備までしてやりたいことか?」
華奢なイデアは風が立つほど激しく頷く。
「勿論。
さあ、プロジェクターを用意したまえ。
僕は電気を消してこよう」
「断る。熱量がいやなんだもん」
「もん? 幼児退行なら後(おく)れを取らないよ」
「僕はせいぜい15年だけど、何千年分戻るつもりだ?」
「億だ。見くびらないでもらおう」
そのあたりで僕たちは、ゆっくりと【御前】の方を伺った。
§3
室内にいた、もう1人。
多くの場合彼女はその恒常性と冷ややかさで、戦場を冷却してくれる。
しかし、今日に限って救い主は沈黙していた。
本のページに目を落として、長い黒髪の一筋すら、凍り付いてしまったかのようだ。
……このままでは僕たちは、幼児退行をしなければならないではないか。
【御前】の、本のページをめくる音だけが室内を占める。
黙っていられるほど怖いことはない。
「巴くん……そうだ。飲み物がほしくない?」
サイファーがわざとらしく彼女に話を振る……GJ。
「私、したいわ」
「ほら、正宗くん。巴くんもしたくないって……ってええー??
みたいな茶番を僕はやらない」
「やり終わってから言うことか」
「やらないと言っているのだ」
だんだん混乱してきた。
「正宗、やりましょう?」
「えっと……どれを?」
僕たちが行おうとしていることは1つではない。
「そうね。まずはプロジェクターを準備する手を止めて」
僕はプラグを差し込んで起き上がる。
話が進行する間も進んでいた準備。
「説得されたいんじゃないか」
サイファーは肩をそびやかすが、
「ほかよりマシなだけだ」
§4
現在、俎上に上がっているのは3種類。
復活選手権とプレゼンと子どもごっこだ。
1番酷いことが実施されるくらいなら、2番目に酷いことでお茶を濁す手がある。
「僕が結局しなかったノリツッコミの可能性も排除できない」
サイファーが余計な可能性を増やしてきた。
【御前】が呆れたように首を振る。長い髪が遅れて胸元を払う。
「悩まなくても、今から言うわ。
それは――」
「ちょっと……待ってくれ」
何故僕は、咄嗟に遮ってしまったのか。
同時に、電気が消えた……準備が整ったかのように。
「ねえ……」
これまで混乱させるだけさせていた人外は、思いがけず側にいる。
電気を消しに行っていたはずなのに、息が耳にかかった。
「声になる前の一文字目を聞いただろう。
彼女は何を望んだ?」
そうだ、僕は【御前】の唇が像を結ぶ瞬間、それに思い当たり、強制終了させた。
【御前】は沈黙している。
識る直前で、途絶えた選択肢の可能性。
無意識は聞き取ってしまった。最悪の”やりたいこと”。
「それで?」
首をかしげる、サイファーの香りで脳が揺れる。
「真実を認識する準備が、君にできているのか?」
§5
”復活選手権をしよう”
僕が望む復活は、識らないままの自分。
聞こえなかったふりへの罰。
それは――何が選ばれたか解らなくすること。
「僕は開幕を宣言する。
幼児語を使って、『復活してほしいもの』を発表しつつ、ノリツッコミをしながら、飲み物を囲んでスライドを見る会」
……あきれられるのは、解っているし慣れてもいるんだ。