ひとたび傷ついた精神は、けして元には戻らない。 人間は心的外傷の瞬間に選択した生き残るための手段を、季節が幾度も巡った後でさえ、繰り返してしまう。 いつしかそれは異常となる。理解されることなく嘲笑を受けて、強制的に正した表面上の傷跡。 ではなぜ、まだ痛むのか。 誰よりも高い場所から見下ろす天使は知っている。 その理由を。その昏迷を。過ちを。 けれど天使は知らない。街にばらまかれた毒薬が、抗いがたい悲愴な願望に応える、か細い手立てであることを。 かくして、敵でないもの同士は、殺し合う道を選択した。 竜と騎士と姫君の宿命は、数千年前から既に準備されている。